コラム

【基礎知識】アンティークドール~主な工房と作家紹介~

今回はアンティークドールの主な工房と作家についてご紹介します。

これらの工房と作家をおさえておけば、アンティークドールはばっちりです。

 

J.D.ケストナー(J.D.Kestner) (1805~1925)

 ドイツの工房です。

初期は木やペーパーマッシュ、磁器でできた人形を生産していました。

1800年後半からビスクドールの生産が盛んになり、代表作としてモールドナンバー221や165の「グーグリー・アイ」などが挙げられます。

1870年前後にチャイナ製やビスク製ヘッドを作り、フランスへ輸出していました。

1880年頃にはべべドール、1900年頃にはキャラクタードール、1910年頃には「ギブソン・ガール」という大人の姿をした人形などを生産しました。

 

G.ホイバッハ(Gebruder Heubach) (1820~1925)

 ドイツの他メーカーにもヘッドを供給していました。

1860年代にはパリにエージェントをおいていたことから、フランスにもヘッドやボディを販売していたと考えられます。

20世紀に入ると主にキャラクタードールを生産しました。

その多くの人形の目はまぶたのラインに沿って白いハイライトを入れ、瞳の部分が沈み彫りになった描き目の「インタグリオ・アイ」です。

またウィッグではなく、型取りして焼いたヘアーが多いのも特徴です。

 

シモンヌ(Simonne) (1839~1878)

 ヘッドとボディは他の工房から取り寄せ、人形にコスチュームを着せて販売していました。

1867年のパリ万国博覧会では機械仕掛けの人形で受賞しています。

ファッションドールにヘッドマークはなく、時々ボディにスタンプ・マークが付いていることがあります。

またスタイナーやジュモーのボディにもシモンヌの紙ラベルが貼られていることがあります。

 

ジュモー(Jumeau) (1842~1899)

ピエール・ジュモー、エミール・ジュモー父子が創設したパリの工房です。

ジュモーのポイントはなんといっても、華やかで洗練されたコスチュームです。

見た目を重視したピエールはコスチュームに力を注ぎ、最新のファッションを積極的に取り入れていきました。

その結果、1851年のロンドン万国博覧会では衣装部門で見事受賞しています。

さらにそれまでボディに直接縫い付けられていたコスチュームを着脱できる形にし、コスチューム単体を商品として扱い、新たなビジネスを確立しました。

 

ユレー(Huret) (1850~1932)

 フランスの工房です。

18世紀後半にはルソーの影響で子どもの教育に力を注ぎ始められ、それまで大人向けとして扱われていた人形は子どもの発達に欠かせない遊び道具と変化していきました。

そこでユレは人形に着せ替えを取り入れる他、アクセサリーなど人形に関する全ての小物の製作にも取り組み、人形遊びの世界観をつくりました。

1855年のパリ万国博覧会では受賞していますが、当時ユレーの人形は非常に高価であったためごく一部の人々にしか広まりませんでした。

1861年にはそれまでのヘッドとショルダーが一体化したショルダーヘッドが一般的であったのに対し、ヘッドとショルダーの接合部分を前後左右に動かすことができるスウィブルネックを考案し、特許を得ています。

初期のボディはマレーシアの木から採れる樹液を乾燥させたゴムのようなも脆い素材であるグッタ・ペルカ製、後期は金属製や木製のものもありました。

ヘッドにはチャイナ製とビスク製があり、目は描き目が多いのが特徴です。

 

J.スタイナー(Steiner) (1855~1908)

元々時計メーカーであったスタイナーは、他の工房より早く機械仕掛けのメカニカルドールを生産していました。

トーキングドールやウォーキングドール、横にすると泣く人形なども生産しています。

また耳の裏にレバーを取り付け、手動で目を開閉させるワイヤードアイなどで特許を得ています。

日本人形の影響を受けて作られた人形もあり、日本人形風の顔立ちや体つきの人形があります。ボディはコンポジションボディであり、他の工房のものに比べ紙の割合が多いため軽く、丈夫であるのが特徴です。

1889年のパリ万国博覧会では受賞しています。

 

ローメル(1857~1880) (Rohmer)

 主にファッションドールを生産していました。

ヘッドにはチャイナ製とビスク製、目には描き目とガラス目があります。

ショルダーヘッドの人形が多いですが、1858年に首が左右に動くフランジネックで特許を得ています。

ボディはキッドボディが多く、ヘッドの素材に合わせてチャイナ製、ビスク製の手足が付いているものもあります。

ローメルの特徴は、人形の大腿部がパンタルーンを履いたような形に作られている点です。

またウェストにはストッキングを止めるための紐が付いていることもあります。

 

バロア(Barrois) (1858~1877)

 主にファッションドールやアクセサリーの製作の他、ドイツ製のヘッドの卸業をしておりブリュやジュモー、L.ペロンにヘッドを供給していました。

ヘッドにはチャイナ製とビスク製、目には描き目とガラス目があります。

ボディはキッドボディが多い他、木製のボディに革を被せたものもあります。

 

F.ゴーチェ(F.Gaultier) (1860~1916)

 フランス最大のヘッド・メーカーです。

ボディは生産せずファッションドールやベベドールのヘッドを生産し、ブリュをはじめ数多くの有名工房にヘッドを供給しました。

 

L.ペロン(1864~1884) (L.Peronne)

 「LILY」という人形のコスチュームのパターンブックを作ったことで知られています。

ヘッドとボディは他の工房から取り寄せ、人形にコスチュームを着せ胸元にマダム・ペロンの名前と住所を記した紙ラベル付けて販売していました。

人形の他にベビーグッズや子ども服なども販売していました。

 

アーモンド・マルセル (1865~1928)

 ドイツのチューリンゲン地方に存在した世界最大級のヘッドメーカーで、フランスでは「アルマン・マルセーユ」と呼ばれています。

高級な人形から玩具としての人形まで、様々な種類の人形を生産しました。

眠り目をした赤ちゃんの人形「ドリームベビー」が流行し、一般家庭にも広がるようになりました。

モールドナンバー390と370が有名です。

 

クレイモン(Clement) (1866~1875)

 クレイモンではボディのみを作り、ビスク製ヘッドは他の工房で作られたものを使用していました。

クレイモンは元々靴のメーカーであったためボディに特徴があります。

ボディは金属製の型を用いて作った革型の表面を膠やオイルを使用した樹脂で硬く加工した、プレスドレザーという軽くて丈夫な素材でできていました。

また関節部分はほぞ接ぎになっており、自由に動かすことができます。

しかし、このタイプのボディはコストがかかり過ぎたため短期間しか生産されませんでした。

 

ブリュ(Bru) (1867~1899)

 レオン・カシミール・ブリュが創設した、フランスの代表的なビスクドールの工房で様々な人形を生産しました。

1867~69年には笑い顔と泣き顔の2つの顔を持つサプライズドールと、 自由にポーズが取れるように関節部分に木釘の接合法を用いた木製ボディで特許を得ています。

1870年代には「スマイリング・ブリュ」という上品に微笑んだファッションドールで金賞を受賞しています。

さらに最盛期である1880年代には、自社で作る衣装が高評価を得るとともに数々のベベドールを開発し、万博でも受賞しています。

名品と呼ばれる人形も1880年代に作られたものが多いです。

 

シモン・ハルビック(Simon & Halbig) (1869~1930)

 ドイツの代表的な工房です。

質の高さを評価され、ジュモーを始めとしたフランスの工房にビスクヘッドを輸出していました。

 

A.トゥイエ(A.Thuillier) (1875~1893)

 A.T.と書いて「アーテー」と読む、フランスの工房です。

1881年のF.ゴーチェの財産目録の中に未決済分としてA.トゥイエが取引先として記されていたことから、一時期F.ゴーチェのヘッドを使っていたと考えられます。

詳細がよく分かっていないA.T.ですが、後期の作品には上下に歯が見られること、「パパ、ママ」と話すトーキング・ドールも存在することからスタイナーとの関係性もあるとされています。

 

ダネル(1889~1895) (Danel et Cie)

 ベベドール、「パリス・べべ」で知られる工房です。

元々ダネルはジュモーの工場のディレクターでした。

しかし1889年に独立したダネルはジュモーの向かいに工場を設立し、 ジュモーからヘッドのモールドや道具を借り、ジュモーから職人を引き抜いていきました。

さらに、ジュモーのヘッドやボディを持ち出し、それをコピーして人形を作ったため1890年ジュモーはダネルを相手取り訴訟を起こしました。

最終的にジュモーが勝訴し、ジュモーがパリス・べべの製作・販売権を勝ち取りました。

 

S.F.B.J(Societe Francaise de Fabrication de Bebes et Jouets) (1899~1930)

 19世紀の後半にドイツがより安く人形の大量生産を始めたため、経営に行き詰まったジュモーやブリューなど数十社が合併してできた会社です。

主にべべドールやキャラクタードール、玩具を生産しました。

それまでの白い肌の美しいベベドールとは異なり、健康的な笑顔や泣き顔、ふくれっ面など、子どもの表情をした人形が多いのが特徴です。

またジュモーは工場をS.F.B.Jに提供し、ジュモーのモールドを使用したためベベ・ジュモーは作り続けられました。

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