ビスクドールの製造方法や用語が分からない、そもそもビスクドールとアンティークドールの違いが分からない・・・そんな方のために、ビスクドール入門として人形の歴史をはじめ基礎知識をまとめました。
人形の歴史やパーツごとの特徴を知ることで、いつどこで作られた人形なのか、どれほどの価値があるのかが分かるようになります。
まずはここからビスクドールを学んでいきましょう。
人形の歴史
人形の歴史は古く、ギリシャ・ローマ時代から始まったとされています。
14世紀後半~15世紀にはフランスで洋服を着させられる等身大の人形が作られ始め、流行を伝えるファッションドールとしてヨーロッパ各地の宮廷婦人に広まっていきました。
その後、フランスとドイツを中心にファッションドールの生産が盛んになり、18世紀には玩具としての人形の需要が高まりました。
また18世紀後半には学びの道具として市民階級の子どもたちにも普及しました。これはフランスの思想家であるジャン・ジャック・ルソーが「女の子は人形遊びによって洋服の着こなしを学ぶことができ、人形のドレス作りは裁縫教育に役立つ」と提唱し、親に人形で遊ばせることを奨励したからです。そのため、当時は人形と裁縫道具がセットで販売されることもありました。
19世紀には世界各地で開催された博覧会や百貨店も人形作りに大きな影響を与えました。
特に、「1855年のパリ万博博覧会では日本の市松人形が出展され、これまでの大人体型のファッションドールから6~7歳の幼児をモデルとしたべべドールが生産されるようになった」というエピソードはとても有名です。
19世紀末にはフランスとドイツでビスクドール工房ができ、ビスクドールは全盛期を迎え活発に生産されました。
20世紀になると人形は広く一般に広まり、より多くの人々に愛されるようになるとともに、骨董的価値や美術性にも着目されるようになりました。
ビスクドールとは
ビスクドールとはヘッドや手足などのパーツを二度焼きした磁器製の人形のことです。
そもそもビスクドールの「ビスク」とは、フランス語の「ビスキュイ(biscuit)」が語源で「二度焼き」という意味です。
また、アンティークドールとは一般的に100年以上経過した人形のことをいいます。
アンティークドールでもレプリカやリプロダクションでも二度焼きした磁器製の人形であれば、それはビスクドールということになります。
ビスクドールの製造方法
ビスクドールの製造方法には「型押し(プレス)」と「型流し(ポアード)」の2つがあり、型押しで作られたものを「プレスドビスク」、型流しで作られたものを「ポアードビスク」といいます。
当初(1890年以前)は陶土を型に押し込んで作る「型押し」で生産されていましたが、内側はザラザラとした肌触りで厚さも一定でない仕上がりであったため、大量生産するには向いていませんでした。
そこで、登場した製造方法が液状ポーセリンを型に流し込んで作る「型流し」です。
これによって大量生産が可能になり、現在もこの製造方法で作られています。
つまり、「プレスドビスク」は「ポアードビスク」より古い時代に作られたものであり、これは価値を見極める際に重要なポイントとなります。
また、着ている洋服から作られた時代や当時の流行を分析することもできます。
人形用語
ここでは、人形のパーツやスタイルを解説しています。
人形の美術性や価値、作られた時代などを調べる際にも参考にしてみてください。
ヘッド編
・ショルダーヘッド
初期のファッションドールに多い作りで、頭部と胸部が一体化しているものです。
後に、頭部を動かせるものも作られるようになりました。
・ターンヘッド
ショルダーヘッドの一つで、首がやや右向きで固定されているものをいいます。
初期のファッションドールに多く、デコルテを美しく見せるためにこのような形になったとされています。
・ドームヘッド
通常、人形の頭頂部は目を入れるためにが開いていますが、ドームヘッドは頭頂部が開いておらずドーム型になっています。
ベビー人形など坊主頭のドールはドームヘッドです。
アイ編
・ブロウアイ(吹きガラスアイ)
瞳を描いた球形ガラスの上にガラスを貼って膨らませた吹きガラスの目です。
シンプルな作りで、中が空洞になっています。
ドイツの人形に多く見られます。
・ペーパーウェイトアイ
ガラス文鎮を作る手法を用いて、白い硫化ガラスの上にカラーと白のガラスを置き、黒っぽい瞳を乗せて作った目です。
ジュモーやブリュの人形にはこのペーパーウェイトアイが使用されており、深みや虹彩までもが細かく再現されています。
目の素材としては最高峰です。
・スリープアイ
寝かせると閉じる、開閉式の目です。
開閉させる仕組みは様々です。
・フラーティングアイ
上下左右に動く目で、スリープアイと同じく寝かせると開閉し頭を傾けると左右に動きます。
・セットアイ
初期の人形に多い作りで、目を石膏で固定したものです。
※スリープアイを修復し、セットアイとなっているものもあります。
マウス編
・ オープンマウス
口が開いているタイプです。
歯が付いているものや口内に赤い紙を貼って頭の内部が見えないようにしたもの、舌があるものなどがあります。
昔は開いた口に歯を付けるには高度な技術が必要だったため、クローズドマウスより高価格で販売されていました。
・クローズドマウス
口が閉じているタイプです。
クローズドマウスはオープンマウスよりも古い時代に作られたものが多いため、現在は高値で取引されています。
・オープンクローズトマウス
口を開けたように見えますが、実際には口に穴が開いていないタイプです。
ボディー編
・パピエマッシュ(ペーパーマッシュ)
紙に糊や樹脂を入れて固めた素材でできたボディーです。
・キッドボディー
初期のファッションドール、ショルダーヘッドにつけられたボディです。
キッドとは子山羊の革のことで、その中に詰め物をしておがくずなどの詰め物をして作ったボディをキッドボディといいます。
初期のものは手までキッドで作られており、可動性がなく立たせた状態で鑑賞していました。
後に、関節を持つキッドボディが作られるようになりました。
・コンポジションボディ (コンポボディ)
コンポジションとは、おがくずにニカワや土などを混ぜ合わせた素材です。
関節はゴムで繋がれており、可動性が高い作りとなっています。
・クロスボディ
布で作ったボディにパンヤなどを詰めたものをクロスボディといいます。
大量生産の抱き人形などに用いられていました。
・オールビスク
全ての部分がビスクで作られた人形で、主に小さいサイズの人形(ミニョネット)によく見られます。
ジョイント部分がなく動かせないオールビスクを「フローズンシャーロット」といいます。
・ボールジョイント
関節部分に木製のボールを用いてバネで自由に曲がるようにしたものをボールジョイントといいます。
身体表現に豊かで人間らしいポーズも可能です。
ネック編
・フランジネック
ベビー人形に多い、すそが壺状に開いた首です。
・スウィブルネック
先が細く、動かせる首です。
ウィッグ編
ウィッグは人毛やウール、麻、綿など幅広い素材で作られています。
1885年にはフレンチ・ビスクに一番高価であった人毛が用いられていました。
また第一次世界大戦中には、毛織物の中心地であったイギリスがモヘアを独占していたといわれています。
ペイト編
ビスクドールのヘッドは目を入れるためにくり抜かれているため、後頭部がなく中身が空洞になっています。
そのため、そのままではウィッグや帽子がずれたり形が整わなくなったりしてしまいます。
そこで、それらを防ぐために差し込んだり被せたりするものがペイトです。
フレンチドールでは主にコルク製のものを、ジャーマンドールではカードボード(厚紙を硬くプレスしたもの)をペイトとして用いていました。
最近は布製のペイトもあり、人形の頭に合わせて作れるようになりました。
また石膏のペイトは主にケストナーの人形でしか用いられておらず、ケストナーの人形には今でも当時のままのオリジナル石膏ペイトが残っているものが多いです。
マーク編
マークには製造した工房のトレードマークが刻まれており、メーカーや年代を知るための手がかりとなります。
ヘッドの後ろにあるマークをヘッドマーク、背中や腰、足の裏にあるマークをボディマークといいます。
・デポゼ
コピー商品との区別のために、商標登録への登録済を示したヘッドマークをデポゼといいます。
デポゼはフランスでは「Depose」、ドイツでは「Dep」と刻まれています。
ちなみに、最初に人形を商標登録したのはジュモーといわれています。
・モールドナンバー
モールドとは石膏製の人形型のことで、これに付けられた型番がモールドナンバーです。
かつては人形を量産するために1つのモールドで約50体分の型が取られていました。
しかし多くの型を取る場合は出来栄えが偏るという理由から、工房やメーカーによっては1つのモールドにつき1体分の型しか取らないこともありました。
スタイル編
・ファッションドール
ファッションの伝達や宣伝用に作られたコスチュームが魅力の人形です。
キッドボディーが主流で、胸と腰は大人の女性体型で作られています。
歴史的資料としての価値もあり、当時の服飾文化を知る手がかりにもなります。
・キャラクタードール
主にコンポジションで作られ、ボディーとヘッドがゴムや糸、ワイヤーで結ばれている子どものような体型の人形です。
・ベベドール
1870年代から登場した、6~7歳の子どもの姿をした人形です。
・トーキングドール、ウォーキングドール
トーキングドールとは、内部に埋め込まれた仕掛けによって声が出る人形です。
声を出す仕掛けは紐を引くタイプの他、歩いたり投げキッスをしたりするといった動作と連動するタイプもあります。
コスチューム編
人形はファッションを伝達する役割を担ってきたため、そのコスチュームから時代や当時の流行を知ることができます。
かつてフランスのクチュリエ(高級服飾店のデザイナー、仕立て屋)は、デザインしたコスチュームを人形に着せ、それを顧客へのサンプルとして利用していました。
それらのコスチュームは、贅沢な素材をふんだんに使ったものであったといわれています。